なんとなくサンネット日記

2010年10月14日

ダブルバインド2010 №2

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秋空

秋空

 ダブルバインドが「嘘」と「秘密」にいろどられている、と書いたことがあります。(「ダブルバインド2010 №1」2009年12月)

 最近、斉藤環の『家族の痕跡』(ちくま文庫、2010年)のなかで、「日本的ダブルバインド」という言葉を見つけました。本家のG・ベイトソンのダブルバインドの事例では、加害者である母親は、暗黙のうちに息子を拒否していました。

 斉藤氏の「日本的ダブルバインド」における「加害者(母)」は、息子を手元に置き続けることを潜在的に望んでいる、そこが違うというのです。(しかし、これは理論という硬いものではなく、社会を読み解くためのアイディアといったものだと思います)

――母親たちが、わが子に「早く自立しなさい」「家から出なさい」という否定的なメッセージを与えつつ、実はわが子の生活を曖昧に支え続けている。無限に許す母親が悪いのではない。そんな母親こそ例外的存在なのだ。否定の言葉とともに抱きしめることが、いかに人を束縛するのか。…本人は、そうした姿勢に秘められた矛盾を意識しつつも、もはや関係の磁場から立ち去ることができなくなる。これこそが私の考える『日本的ダブルバインド』の本質である。(P30-31)

  否定の言葉とともに抱きしめる…よくある心象風景です。私たちの日常においても、ドラマや小説でも、繰り返し現れる風景です。(でも、加害者が男ならこれは“DV”ですね)

 口ではやかましく、あるいは悩ましく、繰言を、願いを、言いつつ、しかし見放さない、支え続けてしまう。それが問題というだけでなく、「母親の愛」「慈愛」ととらえるように強いる関係・社会(それこそ「磁場」)のありようも問題なのです。

 このダブルバインド的状況の真の恐ろしさは、「愛」と「信頼」を、「嘘」「秘密」とミックスしてしまうことにあるかもしれません。

  ダブルバインドの問題が指し示すのは、真意(言語以前のもの)と、その言語が指し示すところとの乖離、ギャップの存在です。ダブルバインドとは、そのギャップをはっきりさせず、あいまいにして、自分に都合のよい方向へ利用してしまう、問題のあるコミュニケーション手法なのです。

 加害者の意図レベルの問題も大きいのですが、もともと言語がもっている本質的な「虚構性」に、ダブルバインドのルーツがあるという側面を忘れてはならないでしょう。

  ――言語が記号であるなら、意味は確実に伝わる。なぜなら記号の意味は、それが単数であれ複数であれ、きちんと対応関係が定まっているからだ。しかし、言語はそうではない。言語の意味は、文脈(コンテキスト)によって、きわめて流動的で定めがたい。…言語は指示する事物と直接の関係を持ちえず、ただ言語間の隠喩的な結びつきによってのみ、意味を生成できる。…記号は対象とのみ関係し、記号同士はほとんど関係を持たないが、言語は対象と直接の関係を持たない代わりに、言語同士の関係から無限に意味を創り出すことができるのだ。――(同、P84-85)

  言語のもつ限界、それは現実の事象と直接の関係をもちえないこと。言語の創造性、それは言語同士の絡み合いつながり合いから、無限の意味が生成すること。フランスの精神科医・思想家であるラカンの言説をひきながら、斉藤氏はこのように述べていました。

 この限界と創造性を逆立ちさせてしまうのが、私たちでもあるのです。たとえば、インターネット(文字)が自分の居場所(空間)であるという日常。文字情報(言語)を集積すれば、世界(事象)が把握できると信じる。共感(事象の基礎)はしなくとも、連帯する権利(言語)があると思い込むetc…。

 このようなあまたある世界の切れ目の地点からダブルバインドは生まれ、「嘘」と「秘密」が湧きあがり、ゆがんだ「愛」が流出するのかもしれません。

  私たちは、言葉のもつ力をあるべき位置に戻し、そうすることで、「嘘」と「愛」を区別できるようにしなければなりません。世界の切れ目を指し示そうとする責務。そういった種類の「仕事」が、人の生きる意味のような気がしてきます。

  今日、友人が退院しました。退院した彼と私、彼につながる人びとが、これからしなければならないことは、言葉の力をだいじに、しかしその限界をしっかり見つめることです。なぜなら、この営みによって、信頼を、情愛を見極めることができますし、ダブルバインド状況を折り返し、克服していくことになるからです。

 ダブルバインドを克服する、それこそがリカバリー(回復)ではないでしょうか。ですから、作業の一端にかかわる、それが、きっと私にとっても大きな喜びになると思うのです。

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