なんとなくサンネット日記(個人ブログ) としおのつぶやき

2009年7月4日

朝の楽しみ

Filed under: つぶやき — toshio @ 9:30 AM
初夏の灯台

初夏の灯台

昨年9月1日に始まった新聞連載小説『親鸞』が11ヵ月目。回数も今日で298回。70代後半の五木寛之が書き続けています。彼の筆の若々しさと力強さに出会う、それが私の朝の楽しみです。挿絵も興味深くて、新聞スクラップを作りました。生まれて初めてのことです。

この小説は、若き親鸞が悟りを開くまでの時期。親鸞ですから、話のテーマは、自然と、仏に救われるとは、念仏とは何かということになります。選択(せんちゃく)という言葉も、テーマの一つのようです。この言葉をめぐって、物語は一気に、現代性を帯びました。これが、私にはなかなかよくて、とても気に入っています。

いまは、〈私〉が選ぶ、獲得するという〈私〉へのこだわりがはびこる時代です。消費への衝動、自分の権利についての観念、他人へのかかわり方、いろいろな面で、「自分教」とでもいうようなできごとと出会います。20年くらいまであれば、「そういう考え方でいいの?」と「議論」できたことも、議論それ自体が個人への介入と切り捨てられる。まるで「信仰」を汚すものであるかのように…。

五木寛之は、こんな時代背景を意識しながら、書き続けているのでしょう。私は次のような文章に出会うとうれしくなります。

【189~190回】
(法然は)これまでに学んだことのすべてをなげうって、阿弥陀仏に帰依した。それを法然は、選択(せんちゃく)、という言葉で語っていた。選択とは、多くのもののなかから一つを選びとることだ。いや、それだけではない。
選択とは、みずからが選びとったということだけでなく、むこうから選びとられた、という事実も大事なのではないか。
選択とは、選別ではない。

「選択とは選別ではない」「むこうから選びとられたという事実」。なんと心ときめく言葉でしょう。
選択とは選別であるし、自分が選ぶこと以外なにがあるかという「自分教」。その狭い世界を後ろにおいて、親鸞はより広い世界に向かおうとします。

次の場面は、若き日の親鸞、綽空(しゃくくう)が、犬麻呂、サヨに念仏の話をするところです。犬麻呂、サヨ夫婦は、親鸞が幼少の頃、家に仕えていましたが、家を離れても、親鸞の成長をずっと見守り、助けてきました。

綽空は難問をかかえていました。サヨから逆に説教さるありさまでした。そんなとき、念仏の話になるのです。ですから念仏の話というものの、決まりきった「ありがたい」お話ではなく、切羽詰った場面で気づいた、心の奥の「叫び」のようなものでした。

【連載224~225回】
ふたたび、犬麻呂どの、とよびなおす。
「はいなんでございましょう」
けげんそうな表情の犬麻呂に、綽空(しゃくくう)は居ずまいをただして、もう一度つよい声で、
「犬麻呂どの」
と、よびかけた。こんどは犬麻呂も大きな声で答えた。
「はい!」
いささかむっとした返事に、綽空がかすかに笑った。いかつい顔が、いたずらっ子のように崩れた。
「そなた、いま、なぜ、はい、と応じられた?」
「え?それは、つまり、綽空さまがわたしの名をくり返しよばれたからでございますよ」
「そこだ」
とうなずいていった。
「わが師の常日頃おっしゃることの受け売りだが、いまの、はい、が念仏ではないのか」
「え?」
「念仏とは、自分でとなえるものではない、弥陀からいただいた念仏じゃ、と法然さまは教えておられる。わかるか。どんな悪人でも往生させたい、浄土に迎えてやりたい、と、仏は願っておられる。それが弥陀の本願だ。だから――」
綽空がつづけるより先に、サヨが口をはさんだ。
「だから阿弥陀さまは、犬麻呂、こっちをむけ、とおよびになっているのですね。名前をよばれて、はいと答えるのが、本当の念仏だとおっしゃるのでしょう?サヨ、とよばれて、はい?とふり返る、その返事が南無阿弥陀仏だと」

自分には分からない世界の奥から、自分を呼ぶ声がある。それは自分を救おうとしている。だから、その声がするほうに顔を向け、心を開いていく。そのすべての始まりが、はい、という返事のような念仏なのだ…。

人間は〈私〉という世界から離れることはできません。でも、〈私〉と外との間に高い仕切りをつくり、〈私〉の世界を城のようにして、閉ざしてしまうか、それとも外に開いていくのかは、自分が決めるはずです。〈私〉を外に開き、外に向かおうとするとき、そこで、恐ろしいほどの世界のひろがりを見出すのでしょう。

物語は、いよいよ綽空が、法然の極意の書「選択集」を読み、写すところにさしかかりました。

きっと、私たちがその広い世界からなぜ目を背けたがるのか、そのことにふれるでしょう。また楽しみが増えました。

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