今年はいくつかのいい本と出会った。
『プシコ ナウティカ--イタリア精神医療の人類学』(松島健、2014、世界思想社)もその一つだ。気に入った言葉を書き留めておいた。
「(病気を体験した人が言った…)君はそう欲した時にだけ書かなくちゃいけないと言ったんだ。だからそういう欲望が大事なんだ。日常的な喜びとインスピレーション…自分自身に語りかけてくる声に耳を傾けなくちゃいけない…これが、危機のときでも人生に対処する解決方法だと思うんだ」(p278)
誰かのために書く、何かをする、というのは大事ではない(まして誰かを貶めようとか、罠に陥れようというのでもない)。自分の内なる声に従って、書く、何かをするというのが大事なのだ。しかも内なる声は、喜びとインスピレーションであること。
なんとすばらしい言葉ではなかろうか。このようなイタリアの病気の人の言葉を掬い取ってきた松島さんという人はどのような人なのか。気になる。
「本物の仕事」とは、試行錯誤しながら直接的な経験をし自らの「効力感」を通じての経験を深化させ、行為の可能性を拡張しているような仕事である。(p399)
障害者への福祉的就労などを念頭に置いた言葉である。しかし、普遍的な意味がある。そして深く共鳴する。
仕事をすることによって、自分の役割を自分で実感する。実感がそれまでの経験をより深め、新しい洞察を導き、自分の可能性が見えてくる…こういった連続したできごとを生み出すのが「本物の仕事」だ、といっている。
確かにそうだ。ここでいう仕事の本質とは「工夫の余地」と「向上の可能性」だ。社会的評価は二次的な要素だと言っている。これまた拍手をしたくなる言葉ではないか。