なんとなくサンネット日記(個人ブログ) としおのつぶやき

2014年5月13日

君がどう思う?

Filed under: つぶやき — toshio @ 5:50 PM
武蔵野の思い出

武蔵野の思い出

『福祉と贈与――全身性障害者、新田勲と介護者たち』、深田耕一郎、生活書院、2013。

http://www.seikatsushoin.com/bk/116%20fukushitozouyo.html

この本の著者、深田氏は1981年生まれの若手研究者。彼が24歳から32歳まで介護に入った全身性障害者である新田勲氏をめぐって書いている。新田氏は1940年、昭和15年生まれ。勲という名前からも当時の軍国主義的だった時代背景がわかろうというものだ。

新田氏の生い立ち、考え、生活スタイル、そして70年代の障害者の自立生活運動を描く力作であり、彼の魅力が匂いたつようだ。軍国主義の時代に生まれ、教育の場から排除された彼だが、先駆的で反権力的な活動と人生は、常に前衛的であり続けた(2013年に逝去)。

その新田氏をめぐる議論は、介護活動の本質に迫っていく。

なぜ「贈与」なのか、その意味は何か…そこがこの本の目玉である。ぼくは大きな刺激を受けたが、ぼくの受け止め、この本のテーマの議論は別にしたいと思う。

全体に魅力的で面白い本だが、新田氏が施設を出て、介護者と地域で生活し始めた1973年から70年代の彼らをめぐるエピソードもぼくにはおもしろい。

かつて同時代の空気を吸っていたからかもしれない。次の引用箇所は、かつて介護者だった二人の人がその頃を思い出して語っている。

 

(1970年代は)運動と介護が一体(の情況)だった。社会に訴える行動がなければ生活の術が獲得されなかったのである。また、新田らにとって運動とは行政交渉ばかりではない。さまざまな社会環境を変えていくことも運動の大きな一角を占めた。…カンパ活動を行うためために電車で(住んでいる都営住宅がある)十条駅から渋谷駅まで向かっても、途中で遭遇するトラブルで一日が終わってしまうことがしばしばあった。(当時の介護者である)まりと下田はこう話していた。

まり:まだバスとか電車にも乗れない時代だったから。バスはほんとうに拒否何回もされたからね。

下田:電車も車椅子の板があるわけじゃないし、階段乗せる乗せないでね。改札は通らないとかね。そういうのを渋谷に着くまでもう何回も大喧嘩。

まり:出かけると必ずトラブルが何回か起きたね。

下田:気合いをこめていく、こっちも。

まり:そういう面はあったね。

下田:ぼくなんかの感覚だと、相手の組織に、たとえば駅の国鉄の組織に闘うって感じじゃなくて、その駅員に「この現状をどう思う?」みたいな話を延々さ、次の駅に来るとまた同じ話して、みたいに。そうするともう、池袋で一時間とか二時間とか。渋谷について上から下に降りてくるのが二時間とか、向こうに着いたらもう夜八時過ぎだったとかね、そういうのはよくあったよね。いま思えばね、「人呼んで来い!」とかいえばよかったんだろうけど、昔はもっと、それぞれ会う人会う人に「あんたはどう思うんだよ?」ってさ、「えらい人呼んできます」っていっても「いや、えらい人じゃない。君がどう思う?」って引き止めて延々話をしてしまう。…(P328-329)

 

この、出会う駅員、出会う駅員と延々話してしまう、「いや、偉い人じゃない。君が」というのはぼくもよくわかる。いまの場、この対面が大事で、ここには動かすことのできない何かがある、と思っているのだ。当然、後出しじゃんけんはあり得なかったし、じゃんけんすらあり得なかった。顔と顔をあわせている私とあなた、いまここで結論を出そうという「若さ」があった。

現代は、駅の管理者に要求し、申し立てるだろう。法律や条例を根拠に述べるだろう。苦情の電話をかけたり、メールをだすかもしれない…。

でもあの頃は、いま、ここの関係が問題だった。議論の根拠になる法も前例もほとんどなく、「ここ」を超えていかねばならなかった。ターゲットは管理者でもなければ、後日相手に与えるダメージでもなく、いまここの生身の関係だった。

いまとは時代状況が違っていたのだ。

それでも、いまだって「いま」「ここ」の出会いにこだわることはある。愛情に関することがそうだ。

だから、著者の深田が「贈与」という言葉に込めたのは、このような、情愛とかなさなりあう関係のことである。それを、いまも、福祉という領域で再現できると主張しているのだ。若い研究者が、8年余にわたる実践の上に立ち、新田氏の個別時代的なできごとをつぶさに追いかけ、心の奥に訴えるような普遍性を展開し、語ろうとしている。ぼくは感動しつつ受け止め、このような議論が生まれたことを祝福したいと思うのだ。

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