なんとなくサンネット日記

2011年9月25日

関係性にコミットする

Filed under: つぶやき — toshio @ 3:15 PM
雲たなびく

雲たなびく

 『痛みの記憶/記憶の痛み――痛みでつながるとはどういうことか』(現代思想、2011年8月号、P38-55)は、熊谷晋一郎(小児科医)と大澤真幸(社会学者)の対談だった。

 熊谷さんは1977年生まれ、出生時から脳性小児まひで電動車いすを使う日常だ。

 大澤さんは1958年生まれの社会学者。年齢も立場も違う二人が、痛みと人のつながりについて考察している。

 熊谷さんは当事者研究に関心がある。大澤さんは、熊谷さんの身体的な痛みや当事者研究のことを興味深く受け止めつつ、新たな知的世界にむけてスケッチを描く。多産で豊饒な大澤さんは、あきらかに熊谷さんに刺激されている。

 熊谷さんの話は興味深い。

 彼は脳性まひの二次障害として慢性疼痛をかかえている。慢性疼痛は急性疼痛と違い、痛みの原因が特定できない。

 「最近の痛みの研究の現場では、おそらく過去の痛みの記憶が、神経の中に記憶、痕跡として残ってしまって…フラッシュバックのように現在の記憶として思い起こされているという状態ではないか、ということがわかるようになっ」たと熊谷さんはいう。(p39)

 慢性疼痛の患者には二つのサポートの方法がある。一つは「痛み随伴性サポート」といわれるもので、相手に共感して痛みを取り除いてあげようと、相手が「痛い、痛い」と表現するたびにそれに応答義務をはたそうとして、いろいろ手立てを講じるサポートである。

 もう一つは「社会的サポート」と呼んでそれと区別する。「痛い、痛い」と表現する人の痛みはさておき、それ以外の部分、たとえば社会復帰のための手立てを講じるとか、体が不自由であれば介助するとか痛みとは関係のないところでサポートする方法である。

 そして「痛み随伴性サポートは痛みをかえって悪くすることがわかってき」たと熊谷さんはいう。

 幼子が道で転んで泣いているとき、周囲が騒ぎ立てればよけいに子どもは痛がる。おとなでもちょっとした切り傷をあまり心配されると、かえって本人は心配になる。日常的な経験を延長させると、慢性疼痛も呼応的であればよくないのでは、と想像できる。

 しかし、この事実を、痛みをかかえ、身体介護を必要としている熊谷さんの側から指摘するところがすごい、と思う。受ける側にしてみれば「痛み随伴性サポート」を確保しておいた方が「得」なはずだからだ。

 彼は、個人的で物理的な「損得」より、当事者がもつ価値の可能性に関心がある。「痛い」→「対応」という応答を越え、言葉を越えた「信頼」「信じる」という次元におおきな潜在的な力があることを、ダルクやべてるの活動を通じ、また自身の体験から知っているからだろう。そして、こう述べる。

 「仲間とともに、関係性にコミットする形で、信をともなった『私たちの知』を開いていくという可能性を見いだしてい」るのが彼の当事者研究、当事者活動であるという(P50)。

 この言葉は、大澤さんが「信じる」ということについて述べたことへの応答である。大澤さんは彼の言葉のやや前にこういった。

 「どうして人は根拠なしにある特定の仮定や可能性を『信じる』ということができるのか。『信じる』ということは何かにコミットするということなのですが、何にコミットするかといえば、実は他者との関係性にコミットしているのです。知識にコミットすることはできないのです」(P48)

 信じるとは、その人の主体的なことであり、「関係性」(“目に見えないきずな”)にコミットしようとする営みであるという。担保も根拠ももたずに、見えないものにコミットする「信」、それが当事者研究、当事者活動を通していよいよあきらかになってきたという前提を二人は共有している。

 そして、それを社会システムにどうやって応用するか、それがこれからの問題だと二人は思っている。「信じる」「関係性へのコミット」…この先には大きな知の地平が広がるのだ。

 (さて、では、なぜ痛みに随伴するサポートに効果がなく、「信」にいたる道を損なうのでしょう。それは「痛み」に人を孤立させるベクトルがあるからだと述べています。サポートすればするほど、痛みのベクトルに沿ってしまい、その人を孤立させてしまう。援助者もそのベクトルに乗ってしまうからだというのです。こんなふうに両義的なエネルギーが、人間を突き動かしているのですね。支配、暴力、自傷、偽り、焦らし、気を引く、嘘…。「援助を求める―援助する」という関係は、人間存在のこの両義的な領域にかかわるむずかしさがあります。でも、だからこそ孤立から共同に折り返す道も“ここ”にあるのではないか、私はそう思うのです。)

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